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5月, 2014の投稿を表示しています

村上春樹『女のいない男たち』

村上春樹にそれなりにはまっていた20代から20年を過ぎ、気の効きすぎた比喩や「~というものなのだ」という物言いに「うっせーな」と思う30代を過ぎ、購入した『1Q84』を開いてみることもせず40代を迎えて『女のいない男たち』(→ ゾンアマ )を買ったった。そして読んだった。いっそ晴れた連休の最終日にベランダにキャンプ用の椅子を出してコーヒー淹れて、雰囲気出した状態で読んだった。 相変わらずだった。たぶんせっかくのコーヒーがマックスバリュのお値打ち価格ものだったのがいけない。いや、コーヒーは美味しかったんですよ。専門店のスペシャルティコーヒーじゃあなくっても、香り爆発じゃなくっても日常飲めるコーヒーというのは案外そういうもののほうが美味しいわけで。じゃあ椅子か。椅子がキャプテンスタッグなのがいけなかったか。次からはモンベルとかなんとかピークとかのにします。 テーマは例によって喪失だと思います。喪失のもつ交換不可能な感じを温度低めから高めまで織り交ぜて打ち出してきています。描いているのは喪失の普遍性なのだけど、ひとつひとつのあらゆる喪失は個別的でしかありえないと言いたげです。でも村上春樹はずっとおんなじものを書き続けてない? 良かったのは北海道のとある市町村からクレームが入ったといういわくつきの「ドライブ・マイ・カー」、早稲田文学部ものの系譜である「イエスタデイ」。預言者との出会いによって喪失に気づく「木野」です。『神の子どもたちはみな踊る』以降、短編は安定して読めています(中編も〉。良かったです。なんだか村上春樹については世上の評判に押されて素直に良かったとはいえない40代がおります。でも頑張っていま言った。

久正人『エリア51』

『ジャバウォッキー』『グレイトフル・デッド』の久正人が連載をお持ちだなんて知らなかった、ということで『エリア51(1)-(7)』(→ amazon )と『ノブナガン(1)-(4)』(→ amazon )。 エリア51が青年誌、ノブナガンが少年誌向け。絵柄の描き分けなど興味深い。ノブナガンは今のところファンゆえ手を出しているレベルでありますが、エリア51はかなり読ませます。世間ではレイモンド・チャンドラーが受けているようですが、何なの?ハードボイルドがいま来ているんですかね?もっとも久正人は最初からハードボイルドなネームが得意な人だと思われるので、思い切りハードボイルドにしたところでバッチリはまったのがエリア51なんだと思います。飾らずに言いますと、とにかくひたすらかっこいい。絵はちょっぴり理解しやすい構図に変わりました。以前はかっこよすぎてどうなっているのかよくわからない構図でしたが、今回はわかりやすくかっこいい。売ろうとしてるなあと感じます。 もちろん作者なので下敷きは怪異世界、このたびは各国の神話から御柱たちをアメリカのエリア51に呼び出して楽しいことになっています。 kindleにはたまたま揃っていたので買いました。紙の本よりずいぶん値引きされていますし、何よりあとで裁断しなくていいわけだから、こんなに良いことはない。読みやすさも最初からこれならこれはこれで慣れていけるので。ただ、刊行が紙より遅れるんですね。書店に並んでいるエリア51新刊(7)を買いたい衝動に駆られます。紙の本から約半年後でリリースしているようです。紙媒体の売れ行きをある程度確保してから、ということなんですかね。

山田参助『あれよ星屑(1)』

久しぶりにグッと来るマンガを読んだ。山田参助『あれよ星屑(1)』((→ amazon )。こんな画風のいまどきのマンガ家がいるもんかねと思う。線とスクリーントーンに、谷口ジローと岡崎京子が漂っている。書店で手に取った1巻の帯に「死にぞこないふたり。焼け跡トーキョーアンダーワールド」とある。昭和の泥臭い感じと、それでいて、しかしながら、どこかポップで救いのある印象を売ろうとするのは、そんなもんかなと思った。うん、でも政治の話ではないから誤解して文句つけんなよ的ではある。東京ガールズブラボーであり、エンド・オブ・ザ・ワールドであり、と。表紙の色使いなんて既視感ありありでしょう。 戦時中にほとんどの部下を死なせてしまった元班長の川島と、元部下の門松が偶然東京で出会う。生きていた上司との再会を喜び、上司を慕う門松と、それを億劫に思いながらも門松を身近に置く川島の与太話が1巻。 川島「無駄死にから逃げて逃げて 結果は皆くたばらせて 俺だけ死にぞこなったんだ 他の死にぞこなった奴らが言うように「死んだ奴の分まで」とはどうしても思えねぇ 死んだ皆の命と俺の命は別々のもんだ 俺はあいつらの代わりにはなりたくってもなれねぇ」 門松「俺ァ学がねえからムズカシイ事はわかりません でも でもネ 俺ァ…班長殿が生きててくだすって こうして東京でまた会えてサ 本当にうれしかったんだ」 ちょっといい雰囲気。 後半は売春で働く女性たちの悲喜こもごもと、とはいえ99%が悲しいほうなわけだが、でもトータルとして悲喜こもごもに読ませる筆致がお見事だと思う。この方サブカルっぽい独特の匂いがあるのは、 山田参助 - Wikipedia によればアングラ系の(というと語弊あるが)雑誌で活躍されていたのですね。戦後の残酷さを、この目線だからどこまでも体温で描けるというのがあるのだろう。