iPadのアプリはまだまだ仕事効率化的な局面で使うことが多い。趣味的な局面で使う機会にはなかなか恵まれない。それはこの手のアプリが、現行のPCソフトをiPad版として商品化したもの、新規性を打ち出そうとしながらも商品としては未完成なものや職人的なマニアックさを伴うものなどにほとんどを占められていて、一般的な消費者が様々な角度から楽しめるような豊かな土壌が形成されていないことにもよるのだと思う。ゆえにビジネスチャンスとしての伸び白は広く残されていると言って良い。
日本の電子書籍がまさにそれを反映していて、自己啓発系に新書系、あとは村上龍のようなオルタナティブかつ実験的なものがちらほら、という感じ。そこに頭ひとつ出たかも、と思わせる絵本に出会った。佐々木譲文/佐々木美保絵『サーカスが燃えた』(→iTunes App Store で見つかる iPad 対応 サーカスが燃えた)がそれだ。
古き良き絵本を志向する絵柄で、タイトルの書体も60年代の福音館書店を彷彿とさせる雰囲気。お話そのものは、火事になったサーカステントから女の子が逃げる、というシンプルなストーリーを骨子としつつ、サーカスの奇妙でフリークスな雰囲気が漂うところは子供心にいかにも引っかかりそうな感じがある。話のオチは実は大人向けとも取られる喪失と成長の物語でもあるところが今風か。といって、大海嚇(→大海赫 - Wikipedia)のようなトラウマ系というわけではない。残香程度のジュブナイルが隠し味。ことばのリズムもところどころ引っ掛かりはあるものの、考えて作ってあり、子どもに読み聞かせるのも楽しいだろうと思う。
電子書籍としての仕掛けは、バンドネオンが奏でる音楽と、時折奥行きを見せるために「カメラフレーム」が動くことと、逃げるシーンで動物などが動くこと、である。動く要素は最小限に抑えられており、というか動かなくても絵本としては十分完成していると言える。むしろこの絵本について電子書籍としての必然性を感じたのは音楽だった。サーカスのあの雰囲気を作るのに大きく役立っているように感じる。ただ、音楽を別とすれば、動かない印刷媒体の絵本として出版されていてもおかしくはないので、電子書籍としての評価は割れるところと思う。
僕が新しさを感じるのは商品そのものの仕掛けというよりも、こうした質のよい絵本が、電子書籍ネイティブとして出版されているところにある。佐々木譲さん作「デジタル絵本」iPadで無料配信へ : ニュース : 教育 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)を読むと、未発表の絵本とあるから厳密には印刷媒体(に載る予定だったものの)の電子版ということになろうが、しかし初版が電子版というところは大きい。これだけの作品が最初から電子媒体で発表されるのは、電子書籍の歴史の大きな通過点になると思う。少なくとも、いま現在は、これを読むためには電子媒体を購入しなければならないのだから(逆にこれが印刷媒体でも発売されるとしたら、その逆転現象の経験も歴史に刻まれるだろう)。
これが無料ということも手伝って、広く読まれるに違いない。おそらくは電子絵本のビジネス戦略が背景にあると思われるが、その思惑通り電子絵本の裾野を広げる作品になることは間違いないと思われる。
(追記)
作者のページを見つけた(佐々木譲の備忘録:日記)。日記をたどると、とりわけ地方社会の書籍流通にとって、電子書籍の可能性を希望的に捉えていることが分かる(佐々木譲の備忘録 : 電子書籍が本屋を消すのか?)。こうした作家の参戦は、本のある社会にとっては喜ぶべきことに違いない。
日本の電子書籍がまさにそれを反映していて、自己啓発系に新書系、あとは村上龍のようなオルタナティブかつ実験的なものがちらほら、という感じ。そこに頭ひとつ出たかも、と思わせる絵本に出会った。佐々木譲文/佐々木美保絵『サーカスが燃えた』(→iTunes App Store で見つかる iPad 対応 サーカスが燃えた)がそれだ。
古き良き絵本を志向する絵柄で、タイトルの書体も60年代の福音館書店を彷彿とさせる雰囲気。お話そのものは、火事になったサーカステントから女の子が逃げる、というシンプルなストーリーを骨子としつつ、サーカスの奇妙でフリークスな雰囲気が漂うところは子供心にいかにも引っかかりそうな感じがある。話のオチは実は大人向けとも取られる喪失と成長の物語でもあるところが今風か。といって、大海嚇(→大海赫 - Wikipedia)のようなトラウマ系というわけではない。残香程度のジュブナイルが隠し味。ことばのリズムもところどころ引っ掛かりはあるものの、考えて作ってあり、子どもに読み聞かせるのも楽しいだろうと思う。
電子書籍としての仕掛けは、バンドネオンが奏でる音楽と、時折奥行きを見せるために「カメラフレーム」が動くことと、逃げるシーンで動物などが動くこと、である。動く要素は最小限に抑えられており、というか動かなくても絵本としては十分完成していると言える。むしろこの絵本について電子書籍としての必然性を感じたのは音楽だった。サーカスのあの雰囲気を作るのに大きく役立っているように感じる。ただ、音楽を別とすれば、動かない印刷媒体の絵本として出版されていてもおかしくはないので、電子書籍としての評価は割れるところと思う。
僕が新しさを感じるのは商品そのものの仕掛けというよりも、こうした質のよい絵本が、電子書籍ネイティブとして出版されているところにある。佐々木譲さん作「デジタル絵本」iPadで無料配信へ : ニュース : 教育 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)を読むと、未発表の絵本とあるから厳密には印刷媒体(に載る予定だったものの)の電子版ということになろうが、しかし初版が電子版というところは大きい。これだけの作品が最初から電子媒体で発表されるのは、電子書籍の歴史の大きな通過点になると思う。少なくとも、いま現在は、これを読むためには電子媒体を購入しなければならないのだから(逆にこれが印刷媒体でも発売されるとしたら、その逆転現象の経験も歴史に刻まれるだろう)。
これが無料ということも手伝って、広く読まれるに違いない。おそらくは電子絵本のビジネス戦略が背景にあると思われるが、その思惑通り電子絵本の裾野を広げる作品になることは間違いないと思われる。
(追記)
作者のページを見つけた(佐々木譲の備忘録:日記)。日記をたどると、とりわけ地方社会の書籍流通にとって、電子書籍の可能性を希望的に捉えていることが分かる(佐々木譲の備忘録 : 電子書籍が本屋を消すのか?)。こうした作家の参戦は、本のある社会にとっては喜ぶべきことに違いない。
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