冨樫義博『HUNTER×HUNTER-32』( amazon )。年末のこの時期に読んだこれが、今年の「このマンガがすげーっす!njm版2012」のダントツ第1位です。選挙戦の流れ、アルカ/ナニカをめぐるゾルディック家の愛と支配の物語、カイト生まれ変わりについての、ベタに魂のらせんと再生の物語が絡み合いつつ虫編の大団円を迎え、新しい冒険への旅立ち。これもう奇跡だとしか思えません。連載時もビリビリ来るところがあったけれど、単行本でまとめ読みすると改めて頭がくらくらするほどのエネルギーを感じます。 コアラとカイトの対話、他者の生をきちんと抱え込んで生きること。キルアとゴンの共依存の物語がようやく終わり、キルアは守るべき存在を見つけ、ゴンは父との邂逅を経て新しい冒険に向かう示唆。登場人物たちが閉塞した孤立ではなく開かれた孤独を選んで生きようとすること。蟻との戦いを経て、対照的ながらもそれぞれに自立の物語が描かれたように思える展開が、突き抜けた爽快感をもたらした印象です。「ベルセルク」もこうやって風通しの良い関係が得られる物語になればよいのにな、とつい考えてしまいました。 マンガ表現としても奇跡的だと思います。というのも、連載を落とす際に「殴り書き」「落書き」のようなタッチになることで有名な冨樫の線が、今回は話の内容とマッチしてしまっているからです。ちょうどコアラとカイト、キルアとアルカ/ナニカ、ゴンの許しの物語を回収するNo.336と337。ラフなタッチにおおぶりのスクリーントーンを貼り付ける、往年のフィールヤングかよ!と突っ込みたくなる(実際岡崎京子を彷彿とさせる)絵柄。狙ったかどうかが分からない、虚実ない交ぜなところもケレン味を感じてしまいますが、この技法が偶然によって生まれたことは間違いありません。そもそも狙った線だとしたら、そのデッサンの崩れ具合からしてふつうのプロの漫画家なら編集者が許さないでしょう。下書きの線が偶然に生み出してしまった表現効果だと思うのです。あの冨樫が「やっちゃった」線でありつつ、それを(大げさに言えば)芸術のレベルに「できちゃった」感満載なところに奇跡をみる思いです。 スピンの故郷の鳥の群生地のシーンや、ゴンとジンの掛け合い、モラウとノヴが酌み交わすシーンも見所。ここまでのハンターで一番読み応えのある巻です。
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